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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)762号 判決

控訴人(附帯被控訴人)(以下「控訴人」という。)

株式会社

梅江大飯店

右代表者

宮下志成

右訴訟代理人

菱川嘉三

被控訴人(附帯控訴人)(以下「被控訴人」という。)

陳知行

右訴訟代理人

中野公夫

藤本健子

主文

原判決中、控訴人が被控訴人から賃借中の原判決別紙物件目録記載の店舗の賃料として、昭和四八年二月一五日以降昭和五一年二月一四日まで一か月金三四万四六二〇円、同月一五日以降一か月金五一万二九六五円を超える額を確認した部分を取り消す。

被控訴人の右取消にかかる部分の請求を棄却する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

被控訴人の附帯控訴を棄却する。

被控訴人の当審における新請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決中、賃料確認請求に関する控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の賃料確認請求を棄却する。

3  主文第四、五、六項同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  (附帯控訴)

原判決中、賃料確認請求に関する被控訴人敗訴部分を取り消す。

控訴人が被控訴人から賃借中の原判決別紙物件目録記載の店舗の賃料が、原判決認容の額を超え、昭和四八年二月一五日以降昭和五一年二月一四日まで一か月金三六万一一〇二円、同月一五日以降一か月金五六万九五七三円でみることを確認する。(当審において請求を減縮)

3  控訴人は、被控訴人に対し、金二四九万〇三〇〇円を支払え。(当審における新請求)

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表八行目に「前年度の」とあるのを「前年度と新賃料を定める前年度の各」と、同一〇行目に「改訂」とあるのを「改定」と改め、同三枚目裏初行に「2」とある次に「控訴人及び被控訴人は、昭和四五年一月ごろ、右1の(ハ)の物価指数は、日本銀行調べの卸売物価総平均指数とする旨合意し、」を加え、同行に「契約」とあるのを「1の(ハ)の約定(以下「本件特約」という。)」と改め、同行目の「原告及び被告は、」を削除し、同六行目に「改訂」とあるのをいずれも「改定」と改め、同七行目の「原告は」から同八行目までを削除し、同九行目に「別表にみるとおり」とあるのを「本件店舗及びその敷地に関する」と、同四枚目表初行に「する。それで」とあるのを「し、右特約を締結した当事者の意思に反するばかりか、著しく公平の原則又は信義則に反する結果となるから、本件特約に基づき」と改め、同四行目の「物価」の次に「総平均」を加え、同五行目の「を基礎とし、」から同八行目の「妥当」までを「によるのが公平かつ妥当であり、本件特約を締結した当事者の意思に沿う合理的な解釈というべき」と改め、同行目の「である。」の次に「また、昭和五一年二月一五日以降の賃料は、右のようにして算出された昭和四八年二月一五日以降の賃料を基礎として、同様の方式により算出するのが相当である。」を加える。

二  同行目の「この場合、」から同五枚目表七行目までを次のとおり改める。

「(二) 本件建物の敷地は、東京都港区六本木四丁目一五番六宅地333.22平方メートルであり、その固定資産税及び都市計画税の合計額は、昭和四五年において一七万二一八〇円、昭和四八年度において四九万〇八八〇円、昭和五一年度において一三四万二六五六円である。

右敷地上には、本件店舗を含む原判決別紙物件目録記載の家屋番号一五番六号の建物(以下「本件建物」という。床面積合計553.1平方メートル)のほか隣接建物一棟(床面積合計71.68平方メートル)があり、右二棟の床面積は合計624.78平方メートル、本件店舗部分の床面積は合計414.3平方メートルであり、本件建物の固定資産税及び都市計画税の合計額は、昭和四五年度において五万七六九〇円、昭和四八、五一年度においていずれも五万七二〇〇円となつているが、右隣接建物は、従前、課税台帳に登録されておらず、固定資産税及び都市計画税は課税されていない。

したがつて、本件建物及びその敷地に関する公租公課中、控訴人の負担すべき額は、土地については、右税額に右建物二棟の総床面積に対する本件店舗の床面積の比率を乗じて得られる額とし、建物については、右税額に本件建物の総床面積に対する本件店舗の床面積の比率を乗じて得られる額とするのが相当であり、結局、一か月当たり、昭和四五年度においては、土地の分が9514.57円、建物の分が3601.06円の合計一万三一一五円(円未満切捨。以下同じ。)、昭和四八年度においては、土地の分が2万7125.75円、建物の分が3570.47円の合計三万〇六九五円、昭和五一年度においては、土地の分が7万4194.43円、建物の分が3570.47円の合計七万七七六四円となる。

昭和四〇年中卸売物価総平均指数を一〇〇とした場合、昭和四四年一二月の右指数は109.9、昭和四七年一二月の右指数は119.1、昭和五〇年一二月の右指数は177.28である。

(三) したがつて、昭和四八年二月一五日の改定後の賃料は、一か月当たり、昭和四五年二月一五日以降の賃料三一万八〇〇〇円から昭和四五年度分の公租公課の負担分一万三一一五円を控除した純賃料額三〇万四八八五円に109.9分の119.1を乗じて得られる三三万〇四〇七円に昭和四八年度における公租公課の負担分三万〇六九五円を加えた三六万一一〇二円となり、昭和五一年二月一五日の改定後の賃料は、一か月当たり、昭和四八年二月一五日時点での右純賃料額三三万〇四〇七円に119.1分の177.28を乗じて得られる四九万一八〇九円に昭和五一年度における公租公課の負担分七万七七六四円を加えた五六万九五七三円となる。

(四) 右のとおり、本件店舗の賃料は、昭和四八年二月一五日以降昭和五一年二月一四日までは一か月三六万一一〇二円、同月一五日以降は一か月五六万九五七三円に改定されたものである。

(五) ところが、控訴人は、本件店舗の賃料として、昭和四八年二月一五日から昭和五一年二月一四日までの分は一か月三四万四六〇〇円が相当であるとし、同月一五日から昭和五四年二月一四日までの分は一か月五一万六九〇〇円が相当であるとして、被控訴人に対しそれぞれ右の額を支払つているので、右(四)の正当な賃料額との差異は、昭和四八年二月一五日以降昭和五四年二月一四日までの間に合計二四九万〇三〇〇円に達している。」

三同六枚目表初行から五行目までを次のとおり改める。

「2 同3項の冒頭の部分を認め、同(一)の主張は争う。本件特約は、賃料改定の際の増額幅についての当事者間の紛争を回避する目的で、卸売物価総平均指数という客観的基準で特定することを合意したものであり、仮に右基準によつた場合純賃料の絶対額が減少するという結果が生ずることがあるとしても、右合意の内容が格別不合理とはいえない以上、契約自由の原則により、賃料は、右特定において定める基準どおりに改定されることとなるのである。また、土地価格の評価換えに基づく公租公課の増額分は、本来土地所有者の負担に帰すべきものであるから、右評価換えにより、土地所有者の実質的収入が減少することは当然であつて、その負担を土地利用者に転嫁するのは不当である。仮に土地に対する公租公課が著しく増加した場合には、右特約に修正を加えた解釈をすることが是認されることがあり得るとしても、本件においては公租公課の額が賃料中に占める割合はなお僅少であり、純賃料の減少の程度も少額であるから、そのような解釈は許されるべきではない。

同(二)のうち、土地、建物に関する主張事実及び公租公課の数額、物価指数がその主張のとおりであることは認め、その余は争う。

同(三)、(四)の主張は争う。

同(五)のうち、控訴人が本件店舗の賃料として、昭和四八年二月一五日以降昭和五一年二月一四日まで一か月三四万四六〇〇円を支払つたことは認め、その余は争う。」

四  同六枚目裏三行目から同八行目までを削除する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一当審においては、被控訴人の本訴請求中、賃料確認請求についてのみ不服の申立がなされているので、右賃料確認請求(ただし、当審において減縮されている。)及び当審における新請求についてのみ判断する。

二請求の原因1、2及び3の冒頭の事実は当事者間に争いがない。

三〈証拠〉によると、控訴人と被控訴人との間の本件店舗の賃貸借においては、賃貸期間を一二年と定めたので、その間、物価の騰貴が予想されるところから、賃料を三年ごとに改定することに合意するとともに、改定額については協議を行うが、右協議に際して無用の紛争が生ずるのを回避するため、改定額の決定基準を物価指数に求めたものであること、控訴人が本件店舗で経営する中華料理店において、被控訴人に対し年間二五万円相当の飲食物を提供するとの点も本件店舗使用の対価たる性質を有するものであること、昭和四五年二月一五日の賃料及び飲食物提供額の改定の際は、昭和四一年一二月から昭和四四年一二月の間の卸売物価総平均指数の増加率は六パーセントに満たなかつたが、当事者間の協議により従前より六パーセント増の額をもつて改定額としたことが認められる。

四本件において、本件建物の敷地の状況及び面積、本件建物、本件店舗及び右敷地上の隣接建物の床面積並びに右土地、建物の昭和四五年度、同四八年度及び同五一年度における固定資産税及び都市計画税額がいずれも被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがないから、被控訴人主張のとおりの方式によつて本件店舗に関する公租公課の負担を算出すると、一か月当たり、昭和四五年度においては一万三一一五円、昭和四八年度においては三万〇六九五円、昭和五一年度においては七万七七六四円となることが明らかである。そして、昭和四〇年中の卸売物価総平均指数を一〇〇とした場合、昭和四四年、同四七年及び同五〇年の各一二月の同指数が被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがないから、昭和四五年二月一五日改定の賃料額一か月三一万八〇〇〇円を基礎としてこれに昭和四四年一二月と昭和四七年一二月の右指数の増加率を乗じて算出した場合、昭和四八年二月一五日改定の賃料額は一か月三四万四六二〇円となり、右の額に昭和四七年一二月と昭和五〇年一二月の右指数の増加率を乗じて算出した場合、昭和五一年二月一五日改定の賃料額は一か月五一万二九六五円となることが計数上明らかである。したがつて、本件店舗に関する右のような各年度の公租公課の負担額が賃料中に占める割合は、昭和四五年二月一五日改定の賃料については4.1パーセント、右のようにして算出した昭和四八年二月一五日改定の賃料については8.9パーセント、同じく昭和五一年二月一五日改定の賃料については15.2パーセントとなり、右各時点における改定賃料から各年度の右負担額を控除した残額は、それぞれ三〇万四八八五円、三一万三九二五円、四三万五二〇一円となる。結局、右のようにして改定賃料額を算出した場合、土地に関する公租公課の増加率が高いことから、賃料中に公租公課の負担額の占める割合が増加し、右負担額を除いた部分の額の増加率は、物価指数の増加率を下回ることが明らかである。

しかし、本件特約は、前記のように、賃料の改定に関して、改定の可否及び改定額をめぐつてともすれば当事者間に生じがちな紛争を回避するために、当事者の合意により予め賃料改定の時期を定めるとともに、改定額の決定基準を物価指数という公表された客観的な数値に求めることとしたものであり、本件特約締結当時における当事者の意図が、賃料額そのものの決定基準を物価指数としようとするものであつたことは、被控訴人の主張自体からもうかがわれるところであるから、公租公課についてその後に右のような事情の変化が生じたため、本件特約により賃料額を算出するに当たり、ただ単に物価指数に基づいて賃料額を算出したのでは、賃料中公租公課の負担分を除いた部分が実質的に減少するという結果が生ずるとしても、それはやむを得ないことであり、そのことのゆえに、本件特約により賃料額を算定するに当たり、単に物価指数に基づいて賃料額を算定することをもつて、当事者の意思に反するとか、著しく公平の原則又は信義則に反するということはできないというべきである。したがつて、本件特約に基づく昭和四八年二月一五日及び昭和五一年二月一五日の各賃料改定については、被控訴人主張のような方法により各賃料額を算出することが公平かつ妥当であり、当事者の意思に沿う合理的な解釈というべきである旨の被控訴人の主張は採用できない(なお、本件のような特約も、その後に著しく大きな事情の変更が生じた場合には、特約そのものが効力を失うに至ることがあり得るとしても、本件店舗に関する公租公課の増加が前記のような内容、程度のものに止まつている以上、本件特約について著しく大きな事情の変更が生じたというべき場合には当たらないことが明らかである。)。

そして、前記のように、本件特約においては、三年ごとの賃料の改定に際し、当事者が協議することを定めているけれども、本件特約は、三年ごとに賃料を改定することを定めるとともに、その改定額の決定そのものについて物価指数という客観的な基準を定めているのであるから、前記のような改定の可否及び改定の額についての紛争を回避するという本件特約締結の目的からすれば、右にいう協議は、物価指数を参考として改定額を協議するというような性質のものではなく、基本的には、右基準によつて算出されるところの額を当事者間において確認する趣旨のものであると解すべきである。もとより、右の協議において、当事者間に合意が成立する限りにおいては、前記認定の昭和四五年二月一五日の改定の際におけるように、実際の改定額が、物価指数に基づいて算出した数額と必ずしも厳密に一致した額でないものとなることがあつても、何ら問題がないことはいうまでもない。しかし、改定の際になされる協議は右のような趣旨のものであり、右特約による改定額は客観的に算出し得るものであるから、当事者間で右のような協議をしながら見解の一致をみなかつた場合にも、本件特約の目的及び内容からして、賃料は、本件特約に基づき、改定時において、物価指数に応じて客観的に算出される額に改定されることになるものと解すべきである。

したがつて、本件店舗の賃料は、本件特約により、前記のとおり、昭和四八年二月一五日には一か月三四万四六二〇円に、昭和五一年二月一五日には一か月五一万二九六五円に改定されたものというべきであるから、本件店舗の賃料が昭和四八年二月一五日以降昭和五一年二月一四日まで一か月三六万一一〇二円、同月一五日以降一か月五六万九五七三円であることの確認を求める被控訴人の賃料確認請求は右の改定された額の範囲内で理由があるから認容すべく、右の額を超える部分は理由がないから棄却すべきである。また、控訴人に対し、昭和四八年二月一五日及び昭和五一年二月一五日に改定された賃料につき、昭和四八年二月一五日以降昭和五四年二月一四日までの間における、控訴人が賃料として支払つた額との差額の支払を求める被控訴人の当審における新請求は、被控訴人の自認する右期間内における控訴人の支払総額が前記改定された賃料額の右期間の合計額を超えることが計数上明らかであるから、失当として棄却を免れない。

五よつて、被控訴人の本訴請求中、賃料確認請求につき、右の限度を超えて請求を認容した原判決は失当であり、本件控訴は一部理由があるから、右部分の原判決を取り消して右部分の被控訴人の請求を棄却し、控訴人のその余の控訴並びに被控訴人の附帯控訴及び当審における新請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(園田治 三好達 菊池信男)

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